2007年4月3日火曜日

チベットの恩返し その5『父と娘』


それはラサでの馴染みのチベタン飲み屋から帰ろうとした時だ。帰り道一緒になった客のオヤジがこっそりオレに告げてきた。
「実は私の娘が今インド・ダラムサラの学校で勉強している。6年前に亡命させたのだが、それ以来娘の姿を見ていない。お前はこの後ダラムサラへ行くのだろう?娘の学校を訪ね、成長した姿を写真に撮ってラサへ送ってくれ。」
この手の頼まれ事はもうお手の物だ。二つ返事で承諾し、オヤジの写真もそこで撮っておき、オレはダラムサラへ向かった。

そしてその亡命チベット人の子どもが多く寄宿している学校へやって来た(実はその学校はダラムサラにはなく、100kmくらい離れた所にあって探し出すのに随分苦労したのだが・・・)。そこの先生に事情を話し、その娘の名を告げるとすぐさま連れて来てくれた。15歳の小柄な女の子だった。
ラサであなたのお父さんに会いましたよ、と写真を渡すとそれだけで止め処もなく涙が彼女の頬を伝った。思わずこちらももらい泣きしてしまいそうになるのを堪え、彼女の話を聞く。
「少しの間だけでもいいからラサに帰ってお父さんお母さんに会いたい」
パスポート無しの亡命の身分ではそれはちと難しいかも・・・とはとても言えず、ご両親はあなたがここで頑張って勉強し続けることを望んでいるはずだよ、と言うと、
「じゃあ頑張って勉強して大学卒業してからラサへ帰る!」
と力強く答えてくれた。

彼女が立派に学を修め、堂々と祖国へ凱旋できることを強く願いつつ、オレは帰路についた。獅子の描かれたチベットの国旗がポタラ宮の上にはためくことを夢見ながら・・・。

(写真:中央が娘。両脇も亡命してきた子供たち)