2002年12月3日火曜日

チベットの恩返し その1『タバコを吹かしたアイツを追え!』


オレはアイツを探していた。
ある田舎で一緒にメシを食い、一緒にタバコを吹かしたアイツを、だ。
アイツはその時そこで道路工事の仕事に従事していた。
そしてオレがラサに着くのと同じ頃、アイツもラサに帰ると言っていた。
アイツの写真をオレは撮っていた。
郵便で送ってもよかったが、どうせなら直接渡して再会を喜びたい、その思いでオレはアイツの家を探して直接渡すことに決めた。

手がかりはあった。名前と住所。
その住所にはオレが今身を寄せているホテルと同じ「北京中路」と記されている。
見つけるのは容易だろうと思われた。

しかし事情が明らかになるにつれ、それが大変困難を極めるであろうということが次第に分かってきた。
なぜならその「北京中路」とはラサ市内を東西に15kmにわたって走るメインロードであったからだ。
しかも中国の住所は大変アバウトで、続くのが「○○商店××号」とあるからだ。
これを東京にたとえるなら、「環八沿いのどっかにある○○商店の近くに住む山田さん」を探すようなものだ。

とりあえずオレはホテルの人に○○商店を知っているか、と尋ねた。
やはり答えは「不知道(知らない)」。
当然だろう。
続いてオレはホテルに出入りする業者に聞いてみた。
こういう男の方が地元の地理に明るいはずだからだ。
オレの考えは正しかった。
その男は見事に○○商店を知っていた。
そこはホテルより10kmほどの所にあるらしい。
オレは愛車にキーを挿し込み(南京錠)そこへ車(自転車)を走らせた。

確かにそこに○○商店はあった。
ここまで来ればもうこっちのもんだ。
あとはその辺のぶらぶらしている人に写真を見せ、この人の家を知っているか、と聞きまくればよいのだ。
そしてものの10分もしないうちにオレはアイツの家の扉の前に立った。
心臓の鼓動と同じペースでオレは扉をノックした。
中から女の声がした。
オレはその女に素早く自己紹介し写真を見せた。
その女はアイツの妻だった。
部屋の中では赤子が泣いていた。
「アイツは今どこにいる?」
しかしその答えはオレを落胆させた。
なんでも工事期間が延びたらしくまだ1ヶ月は帰らない、というのだ。
大変無念ではあったが、妻はその写真を懐かしそうにながめ、赤子に「パパだよ!」と言ってきかせていた。
いつしか赤子は泣き止んでいた。

帰り道、白く輝くポタラ宮がオレに「ありがとう」と言っているような気がした。
今晩はうまい酒(チンコー酒)が飲めそうだ。

(写真:右から2番目がアイツ)