2006年11月5日日曜日

グレートジャーニー


地方のチベタンは農閑期に入るとラサへの巡礼の旅に出る。
ある者は家族と、ある者は友人と、またある者は村総出で。
行き方も、飛行機で、ランクルで、バスで、トラックの荷台に乗って、トラクターで、歩いて、など様々。中でも、最もチベットらしく、最も皆から尊敬されるのが、五体投地で尺取虫のように少しずつ進んでゆく巡礼だ。

彼らの方法は、五体投地部隊と荷運び部隊に分かれ(役は日替わり)、荷運び部隊は大八車、トラクターなどに生活用品全てを積み込み先行し、水のあるところでテントを立て、牛の乾燥ウンコ(焚き火の燃料となる)を集め火をおこし、茶を沸かし食事を作って後続の巡礼部隊を待つ。
そう分業しても五体投地前進は絶望的に遅いので一日に移動できるのはせいぜい10km。
ほとんどのグループは、ラサまで半年近くかかると言っていて、その長さに唖然とさせられたものだが、さらにその上をゆく物がいた。

それは「一人」五体投地巡礼。

17歳の少年僧が行っていたそれは一人なので全ての作業を自分で行わねばならない。
まず荷の積まれた大八車を100m引っ張る。
そこに車を置いてさっきの所まで戻って五体投地を開始し100m前進。
また大八車を100m引っ張って…をひたすら繰り返す。
もちろん水汲み・テント立て・食事作りも自分でやらねばならない。
食料がなくなれば托鉢も行わなければならない。
そのため団体巡礼者に比べ一日に移動に費やせる時間もはるかに少なくて、丸一日使って移動できる距離は平均で4km、上り坂だと3kmくらいしか進めない…。
赤ちゃんのハイハイより遅いのでは??
出発してからすでに一年少し経った、と言っていたが、彼の田舎からラサまでは約2500km。
平均4km/日で二年弱かかる訳だ…。

エベレストに登ることが冒険でもなんでもなくなった現在、身の回りの者以外特に認められることもなく、世に知られることもなく、チベットの山奥でひっそりとこんなハードな冒険をしている者がいたとは!!
彼から「自転車だと一日どのくらい進めるの?」と聞かれ答えるのが恥ずかしかった。

「地球一周一人五体投地!」
これを成し遂げれば冒険史に残る大偉業になること間違いなし!!
しかし一日4km進むとしても地球一周4万kmにかかるのは約30年…。
やっぱり無理か。

(写真:一人五体投チャー。さすがにもうラサに着いたか?)