2003年9月23日火曜日

宗教冒涜

初めてのイスラム国訪問であったエジプトにて。

日本では感じることの出来ないイスラムの神秘性に酔いしれていた。
そんな中、町外れの小さなモスクに行ったところちょうどお祈りの時間。
外から中の様子をうかがっていると、それに気付いた導師さんがやってきて話し掛けてくる。

「日本人か?」
「イエス!」
「エジプトは楽しいか?」
「イエ~ス!」
「イスラム教徒になりたいか?」
「イエ~~ス!!」

勢いで言ってしまった。

「それでは『ムニャムニャ(本当はもっと長い)』と2回唱えなさい。」
「ムニャムニャ、ムニャムニャ」
「よろしい、これで君はイスラム教徒だ。これからは『ムハンマド』と名乗るがよい」

ムハンマドになってしまった。

その後イスラムの基本である「五行六信」の教えを受け、礼拝前の身の清め方を習い、ペコペコやる礼拝法も伝授された。
いっぱしのエセイスラム教徒である。

しかしここでイスラム教徒になったことによるパワーは想像を超える絶大なものであったのだ。
旅の途中で会った人に宗教を聞かれ、イスラムと答えるとまるで旧知の友を迎え入れるかのような歓迎を受けてしまう。
それが楽しくて頻繁に使ってしまった。
場面に応じて「キリスト教」「仏教」も使い分けていたのだが・・・。

ある時茶店で皆でワイワイやっていた時、やはり宗教を問われその時は「仏教」と答えた。
するとさっきまで楽しく話していた中の一人が突然
「この異教徒め!汚らわしい!出て行け!」
と怒り出したのだ。
周りの人が静めようとするもその怒りは収まらず、私はスゴスゴと退散した。

その時思ったのだ。神聖なる宗教を私のように遊び半分で使うものではない、と。
それ以来「イスラム教」は封印し、無難に「仏教徒」ということにしておいた。

時は流れ一年後、モロッコのカサブランカにいた。
そこには近代建築術の推移を集めた豪華絢爛の巨大モスクがある。
異教徒も観光は出来るのだが、その時は運悪く金曜昼の礼拝の時間で観光客の入場は禁じられていた。
私はまもなくカサブランカを去らねばならなかった。
しかしどうしてもこのモスクの中を見てみたい!
そして思わずしばらく封印しておいたあの禁断の技を使ってしまったのだ!!

入り口に近づくとやはり警備の人が「外人は入れません」と言ってくる。
私は言った。しかも既に身につけていたインチキ臭いアラビア語で。
「私は日本からのイスラム教徒です。このモスクで祈るためはるばる遠くからやって来ました。中に入って皆と一緒に『ムニャムニャ』と唱えたいのです!」
すると警備の人はちょっと待て、と言い残し偉い導師様を連れてきた。
その導師に同じことを繰り返すと、導師はニコヤカに
「遠いところよく来てくれました。さあ中へどうぞ」

中は想像を遥かに超えていた。
数千人のイスラム教徒がいっせいにしゃがんだりペコペコする様は巨大な稲穂の波が揺れているようでもあった。
すがすがしい気分でカサブランカをあとに出来そうだ・・・。

しかしやはり神の天罰が下ったようだ。
その日乗ることになっていたバスは、荷物だけ載せて私をおいて行ってしまった。
翌日荷物は返ってきたもののやはり神聖なる宗教を冒涜するべきではなかったのだ。
それ以来「イスラム教」は封印されたままである。