2004年1月20日火曜日

第30話 再訪

走り始めると不思議なことに気付いた。

覚えているのである、何もかも。
店、看板、道のカーブ具合、木、普段なら目に入ってくるだけで記憶には残らないちょっとした風景が全て。

そしてしばらく進むと、突然記憶にない風景が続くようになった。
そう、そここそが2年前事故に遭った場所に違いないのだ。
私は自転車を降り、辺りの草むらを探し回った。
もしかしてそこにクシャクシャになったあの自転車の残骸があるかもしれないと思ったからだ。

何度も何度も往復したが結局それをみつけることはできなかった。
トルコで最期を迎えてしまったあの愛車に静かに手を合わせた。
学生時代の思い出の全てを共有したあの自転車に。

気を取り直し、再び漕ぎ始めた。
次なる目的地はあの9日間入院した病院である。