2004年1月8日木曜日

第9話 検診

入院2日目。

朝の検診でドクターがやってきて包帯を取り替えたりひざの調子を診たりしていた。
彼は何も言わず黙々としているのでこっちから聞いてみた。

「左足の骨はどうだったんですか?」
「君の足の骨はNOブロークンだ」

そうか、骨は大丈夫だったのか。
しかしもう一つ昨日の夕方頃から気になっていたことがあった。
それはしびれたままの左足である。
包帯でグルグル巻きにされた足でも、ひざは微妙に前後に動く。
しかし足首や足の指は後方へ曲げることはできてもそれを戻すことができないのだ。
そのことをドクターに聞いてみた。
すると包帯の先に少し出ている指をペンでツンツンし、動かしてみろ、と言う。
しかし曲げれても戻せないことを説明すると悲しそうに首を振りまたよく分からぬ言葉でフニャフニャ話し出した。
その中に「Cut」と言う単語だけが強い衝撃を伴って耳に入ってきた。
神経が切れてしまって動かないことを説明していることは明らかだった。

私は再び聞いてみた。
「それは復活しないのか?」
「No」

事故が発生して以来私は常に気を強く持ち続けてきた。
一人で全てやらねばならぬ、今動きを止めては何も前進しないからだ。
ただ、この時初めてうろたえた。

もうあの足の感覚は永久に戻らないのか?
自由に歩いたり走ったり跳びまわったり野球したりサッカーしたり、そして自転車に乗って世界を旅することももうできないのか?
私は一生身体障害者のレッテルを貼られ不自由な生活を送らねばならないのか?

なんとなく覚悟していたとはいえ、現実に言葉に出して言われた時のショックはここに書き記すことはできない。
私の乏しい表現能力ではこの深い悲しみを表すことはできないくらいのショックなのだ。

その日1日色々な事が頭をよぎり去っていった。
今となってはもう覚えていない。
覚えていたとしてもここに書き切れない程のことを考えていただろう。

ただその日、ズタズタにされた体を心を少し癒してくれたことは事故の加害者、つまり反対車線に飛び出し、私をはね、町の病院まで輸送してくれたオッサンら三人が見舞いに来たことだった。